広島簡易裁判所 昭和38年(ろ)19号 判決 1964年5月18日
被告人 吉村次男
昭八・六・九生 無職
主文
被告人を罰金二、〇〇〇円に処する。
右罰金を完納できないときは金二五〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は昭和三八年一月二二日午後二時四〇分頃広島市井ノ口町八幡橋東詰附近道路において、六広ぬ九二―六八号軽四輪自動車を運転するに際し、自動車運転者としては速度計のみに頼らず、自己の速度感覚、他車両との速度対比等により、法令に定められた最高速度四〇粁毎時を超えないように注意しながら運転しなければならないのに、不注意にも故障した速度計を過信してその最高速度を超えたことに気付かず、漫然右最高速度を超える約四九粁毎時の速度で進行したものである。
(証拠の標目)(略)
(弁護人の主張に対する判断)
弁護人は、被告人は本件車両の速度計に故障の存することは思いもよらず、その指示するところに従い最高速度を遵守しつつ運行したもので、右車両は中古車とは言い条、購入後まもない車であるから被告人が右速度計に故障がないものと信じたのは無理からぬことで、それ以上に運転感覚等により最高速度遵守の注意義務を被告人に要求するのは難きを強いるもので、ひつ竟、被告人の本件所為には所謂期待可能性がなく、被告人は無罪である、と主張する。
よつて判断するに、前掲各証拠によれば、被告人は昭和二六年五月九日運転免許を取得し、以来連続的ではないにしても多年に亘り車両を運転してきた経験を有するもので、本件車両は購入後の被告人による使用期間は短いが、六一年型の中古車で、しかも所謂車体検査の要求されない車であること、更には世上一般の中古車の取引状況等に徴すれば、被告人の如き経験を有する自動車運転者としてはその速度計の指示針の振れ(四乃至五粁もあつたことが認められる)に当面してその故障に思いを致し、これのみに依存せず、過去の経験により自ら収得した運転感覚(スピード感覚)等により最高速度以下に減速運行すべき注意義務があるものと言うべきで、かかる注意義務を要求しても一般の経験則上不能を強いるものとも認められないし、又他に所謂期待可能性の不存在を肯認すべき証拠もない。結局弁護人の右主張は理由がない。
(法令の適用)
道路交通法第六八条第二二条第一項第一一八条第二項第一項第三号同法施行令第一一条第三号罰金等臨時措置法第二条。刑法第一八条。刑事訴訟法第一八一条第一項本文。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 田村承三)